プロダクションノート
Production Notes

『君と花火と約束と』の始まりは2017年――。「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」、近年では「僕の心のヤバいやつ」「銀河特急 ミルキー☆サブウェイ」「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」等で知られるアニメーションスタジオ・シンエイ動画の代表を務める梅澤道彦は、終戦80年の節目に向けた企画を模索していた。そんな折、運命に引き寄せられるように長岡まつり大花火大会に足を運び、華やかな祭りに込められた長岡空襲の犠牲者を悼み、平和への祈りをささげる目的を知る。長岡花火を軸にしたアニメーション映画を作りたい――。その想いにかられた梅澤は、先々の映画開発への想いを胸に、まずはすべての始まりとなる原作を開発すべく、かねてより親交のあった「あしたの私のつくりかた」で知られる小説家・真戸香に打診し、二人三脚での物語づくり始まった。

戦争を題材にするからといって、受け取り手が覚悟を要するような凄惨で重苦しいものにはしない。現代の若い人たちに興味を持ってもらいたいという梅澤に共感した真戸がテーマに掲げたのは「命のつながり」。戦時中から現在に至るまで、それぞれの“いま”を懸命に生きた人々の想いが紡がれて次の時代・世代を作っていくエモーショナルな物語の骨格が築かれていった。「戦時下で生きていた方々と平和な現代の我々、それぞれの時代に応じた必死さがあって、懸命に生きていくことで未来が紡がれる――その美しさを描く物語にしたいと執筆を始めました」(真戸)

そのうえで2人が採り入れたのは、戦時下を生きる女性ハルが現代にタイムスリップするというアイデア。姿を消した同級生・煌を捜す主人公・誠とハルが出会い、「打ち上げ花火が描かれた絵」に込められた切ない“秘密”をめぐる物語が展開していく。2018年には真戸が初稿を書き上げ、コロナ禍で中断しながらもクライマックスに花火が打ち上がるシーン等を追加するなど所々のブラッシュアップを経て2022年にはほぼ現行の状態にまで到達。2023年には出版社未定のまま書き始めていた小説の小学館からの書籍発売、そしてシンエイ動画を中心にアニメ映画化に向けた動きが正式にスタートし、2025年に満を持してガガガ文庫より小説版が刊行された。真戸の才能を信じて「納得いくまでやった方がいい」とあえて締切を設けず、物語の具体的な中身に関しても一任したという梅澤は「当初から映画化は考えていましたが、面白いストーリーが出来なければその時点でプロジェクトは終わっていたと思います」とねぎらう。

新潟県長岡市で毎年8月1日から3日にかけて開催される長岡まつり。中日の2日と3日に開催される大花火大会は秋田の全国花火競技大会、茨城の土浦全国花火競技大会と並び「日本三大花火大会」と称され、全国各地から観客が訪れるビッグイベントだ。長岡まつり自体の起源は終戦直後の1946年にまでさかのぼる。太平洋戦争中の1945年8月1日に発生した長岡空襲で命を落とした犠牲者たちの慰霊、深刻な被害からの復興を願う催し「長岡復興祭」として始まった。そして2003年からは、長岡空襲が始まった時刻である8月1日の22時30分に犠牲者の慰霊の願いを込め、3発の真っ白な花火が打ち上げられる。これは「白菊」の名で親しまれ、元々は花火師・嘉瀬誠次さんがシベリアで亡くなった戦友を弔うために制作したもので、「世界中の爆弾をすべて花火に変えたい」との想いが象徴されている。なお、先述した長岡空襲は22時30分から1時間40分もの間続き、旧市街地の8割が焼け野原と化したという。犠牲者の総数は現在わかっているだけで1489名にも及ぶ。

小説/映画『君と花火と約束と』は長岡まつり――とりわけ8月1日に開催される「平和祭」を組み込んだ物語が展開。さらに真戸によれば、名画「長岡の花火」の作者である山下清が遺した「みんなが爆弾なんかつくらないできれいな花火ばかりつくっていたら、きっと戦争なんて起きなかったんだな」との言葉に影響を受けているという。小説/映画の制作においては長岡まつり大花火大会はもちろんのこと、長岡高校や長生橋、平潟神社、花火工場などを視察している。夜空に煌めく長岡花火と共に、長岡市内の各所が登場するロケーションとドラマの融合にも注目いただきたい。

『君と花火と約束と』に登場するキャラクターを考えるにあたり、真戸は主人公・誠と同じ高校1年生の男子に数名に取材を実施。それぞれ一対一で話したというが、全員から同じ質問を受けたという。それは「やりたいことは昔からありましたか?」という切実な悩みだった。親や保護者からは「やりたいことをやり、なりたいものになりなさい」と言われるものの、当の本人は夢中になれるものがなかなか見つからない。いまを生きる彼らの葛藤を受けた真戸香は、リアルな若者像を誠に反映。そしてもうひとつ、「俺が君を守る」的なヒーロー像からの脱却も重要なテーマだった。時代が移り変わっても「男たるもの好きな女を守るべき」という風潮や価値観は根強く残っていると指摘する真戸は「大事な人を傷つけない男の子こそがヒーローで良いんじゃないかという想いを誠に注入した」と語る。

こうして出来上がった誠に声を吹き込むのは、アニメーション映画初主演となるtimeleszの佐藤勝利。俳優としても2025年は舞台「ブロードウェイ・バウンド」で主演を務め、テレビドラマ「アポロの歌」(MBS・TBS)、映画『教場 Reunion』等、フィールドを問わずに目覚ましい活躍を続けている。「ずっとアニメーションの仕事がしたいと願っていました」というコメントが象徴するように、ナイーブで真っ直ぐな等身大の高校生を解像度高く体現した。

初対面ながら誠に「本当に出会ったね、私たち」と声をかけるミステリアスで可憐な同級生・煌に扮するのはアニメ映画『すずめの戸締まり』でヒロインを務めたほか、連続テレビ小説「あんぱん」でヒロインの妹役を務めるなど話題作への出演が相次ぐ原菜乃華。誠と交流を重ねて距離が近づくにつれ、胸に秘めた心情が少しずつ紐解かれていくさまを繊細に表現している。2人の起用は、原作者・真戸が太鼓判を押す念願のキャスティング。

「佐藤さんはドラマ『誰も知らない明石家さんま』内の『笑顔に会いに行く道』でのお芝居がとても記憶に残っており、もし誠をやっていただけたら素敵だなと思っていた方でした。そして原さんはアニメ映画が本作で3作目とは思えないほど実力のある方ですし、煌の強さや背負っているものを表現できる方とも感じていたため、決まったとお聞きしたときは滅茶苦茶嬉しかったです」(真戸)

キーパーソンとなるハル役に抜てきされたのは、ヒロインに扮した「からかい上手の高木さん」や伝説のアイドルを演じた「【推しの子】」、落語家声優に挑戦した「あかね噺」ほか近年ますます成長著しい高橋李依。「からかい上手の高木さん」で高橋と組み、その表現力にほれ込んだ梅澤の強い願いにより参加が実現した。1945年当時の長岡弁でのセリフなど技術を要する役どころでもあるが、人間性にまで昇華した熱演に要注目だ。

「原作モノの映像化において、何を大事にして何を諦めるかの取捨選択は毎回苦労するものです」(梅澤)と語る。だが、こと『君と花火と約束と』においてはその“常識”は当てはまらなかった。始祖となる小説の企画段階から真戸と並走してきたためだ。両者は脚本制作に代表される小説→映画への変換作業は「スムーズに進んだ」と口をそろえる。

真戸は「明確な〆切も決めず、梅澤さんと2人きりで走り出した企画でしたが、ガガガ文庫さんが書籍化に手を挙げて下さったり、こんなに大勢の方を巻き込んで映画化もされて、どんどん味方が増えていった印象です」と振り返る。その言葉に頷いた梅澤は、映画化に賛同した出資者の熱量の高さを明かした。「途中段階の脚本を知り合いの会社の社長たちに読んでもらったら10社以上が『感動した』と出資を決めてくれました。これだけ多くの会社が参加するケースは非常に珍しく、ありがたかったです」(梅澤)

制作においては鈴木慧監督や各スタッフの手腕に任せているというが、本作の“華”でもある花火については映像表現はもちろんのこと、音に強いこだわりを見せる。「現地で見ると、花火が開いてから遅れて『ドンッ』という音が聞こえてくるものですが、それを現実通りにアニメでやってしまうと逆に違和感が出てしまいかねない。どのくらいのタイムラグが最も臨場感を得られるのか、テストを重ねているところです」(梅澤)

美しくも儚い青春ラブストーリーと、長岡空襲を描く痛ましい戦争描写のギャップも本作の特徴だが、そのバランスも慎重に検討を重ね、最適解を模索した。梅澤は「我々が目指すのはあくまで広く受け入れてもらえる作品。観客の皆さんが観終えた後に『もうちょっと前向きに生きていこう』と思って劇場を後にしてくれる映画になれたら、言うことはありません」と結ぶ。小説と映画、形態こそ違えど真戸と梅澤がそれぞれに込めたメッセージは同じ。悲劇を忘れず、二度と繰り返さぬよう語り継ぎ、未来へと平和をつなげていくこと。花火という芸術を通して哀悼を続ける長岡まつりから始まった『君と花火と約束と』は、その精神の次なる担い手でもあるのだ。